西神戸医療センターだより

21世紀に入り高齢化社会に突入した日本では、単に寿命を延ばすだけでなく、健康でいきいきと過ごすことのできる「健康寿命」を延ばす医療が求められています。
整形外科は、寝たきりや要介護状態を招く要因のひとつとされている筋肉・関節・神経に関連した運動器の疾患(ロコモティブシンドローム)や骨折など、高齢者の生活の質(QOL)の低下につながりかねない症状に対応しています。手術やリハビリのみならず精神面のケアにも気を配り、満足度の高い治療を目指しています。
(お話は、整形外科部長 藤原正利医師)

 

アクティブな老後をサポート

整形外科部長 藤原正利医師Q:整形外科と聞くと、まず骨折などの症状が思い浮かびますが、実際にはどのような患者さんが多いのでしょうか?

藤原:救急診療に関しては、外傷による上肢の骨折や大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)骨折などが多いです。小・中学生のお子さんの場合は、入院などで就学に支障が出ないように、あるいは、痛みがトラウマになってしまわないよう、できるだけ緊急に治療するよう心がけています。
また、地域の中核病院ということで、近隣の介護施設に入居されている高齢者の方が運ばれてくることもしばしばです。もともと要介護状態にある方々ですので、転倒など簡単な外力により骨が折れてしまうことが多いですし、治療で安静臥床の状態が長く続くとさらに運動能力が落ち、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が悪化するなどで、寝たきりに陥るケースもあります。悪循環になる前に適切に手術やリハビリなどを施すことが大切です。
 外来では、膝や腰の痛みを訴える高齢女性が増えています。股関節や膝関節の変形による歩行障害、背骨の中にある脊柱管(せきちゅうかん)の変形や狭窄(きょうさく)により、歩いているうちに足にしびれや痛みが出てくる間欠性跛行(かんけつせいはこう)など症状は様々です。女性は出産前後や閉経前後など骨がもろくなりやすい時期があるうえ、男性より平均寿命が長い分だけ健康寿命とのギャップが大きくなり、整形外科を受診する機会も多くなりがちです。

 

中規模だからこその連携プレー

Q:手術や入院が必要になった場合、設備や専門医は充実していますか?

藤原:ベッド数は35床と大病院に比べて規模では劣るかもしれませんが、他科の医師とのコミュニケーションが密ですので、総合病院としての利点を発揮できると自負しています。たとえば、麻酔科医との連携によりペインコントロールを行なったり、糖尿病や心疾患などの持病がある方に手術が必要な場合は、合併症に配慮したトータルケアを行っています。不眠症がある場合は神経科のサポートを仰いでいます。
現在整形外科には、私の他にリハビリテーション科の指導も行っている中井医師、人工関節置換術などを専門とする吉田医師のような経験豊富な医師が在籍しています。さらに昨年度からは、肩関節鏡による内視鏡的手術により、関節拘縮、肩腱板損傷といった疾患を低侵襲で治療できるようになりました。

 

Q:リハビリテーション科との連携も、整形外科にとっては重要ですね。

藤原:外科的な手術を成功させることは大事ですが、高齢者の場合は若い方のような回復が望みにくい場合もあり、リハビリにも長い時間を要します。だからこそ、心身の痛みを理解して寄り添う姿勢を忘れず、不安を払拭するアフターケアを提供していくことが医療機関に求められているのではないでしょうか。痛みを理解してくれている、共感されていると感じることが、患者さんの満足度を上げると考えています。

 

整形外科先進国で学んだ最新治療

Q:藤原先生は、1992年にフランスに渡って骨盤骨折の治療について研究されたそうですが、日本の整形外科治療に比べてどのような違いがありましたか?

藤原:当時の日本では、6週間ほど牽引した後、3ヵ月ほどかけて徐々に歩行できる様にする保存治療が主流でした。ところがパリの病院では、受傷から1週間以内に手術し、手術翌日から股関節運動、歩行訓練を行っており、退院も当然早期でした。日本とのギャップ、理念の違いに驚かされました。
しかし、ここ10年程で日本にも早期内固定、早期リハビリの理念が急速に受けいれられる様になりました。長期臥床の危険性が認識されつつあり、患者さんがご高齢であっても、合併症で手術できない人以外は、骨折に対して積極的に手術を行うことが主流となってきています。ようやく日本の骨折に対する治療も高いレベルに達しつつあることを実感し、感慨深いものがあります。整形外科の学会での発表を見ても、若い整形外科医の早期機能回復への意欲が感じられますし、当院の若手整形外科医も海外研修や国内の学会発表などを通じて日々研鑽を積んでおり、頼もしい限りです。

 

Q:最近は、積極的にスポーツや趣味などを積極的に楽しむ“アクティブ・シニア”が増えているようですが、西神戸地区にお住まいの方はいかがですか?

藤原:ご高齢者の患者さんの中にも、水泳やダンスを楽しむなど定期的な運動習慣を持つ方が多く、健康管理に対する意識の高い地域だなと感じています。しかし、膝や腰などにトラブルを抱えて動けなくなってしまうと、そうした楽しみの基盤が失われてしまい、生活の質が落ちてしまうのが心配です。
「この程度の痛みで、迷惑をかけてはいけない」と来院をためらう方もおられるでしょうが、症状が軽いうちの方が回復も早いことが多いですし、手術の場合は機能回復の可能性も上がります。また、糖尿病やメタボリックシンドロームなどが合併している場合は、他科とも協力し治療致しますので、遠慮せずに訪ねて来てください。神戸市西地域に根づいた安心・安全な医療をめざしていますので、宜しくお願いします。

 

ピーター氏の絵

アクティブな老後をサポートQ:留学中は、医療のほかアートの力にも関心を持たれたとか?

藤原:フランスでは街の通りや公共の施設の中に銅像や絵画があり、人々の目を楽しませてくれているのが印象的でした。帰国後、地方で高齢者医療を実践しておられる方の著書の中に「地元の言葉と地元の風景が一番の癒しになる」との言葉があり、殺風景な白い壁を地方の風景で飾れば、痛みやリハビリなどで辛い思いをしている患者さんの気持ちを癒せるのではないかと考えたのです。ナイチンゲールの著書にも同じ様な趣旨が述べられていました。

 

Q:病棟や食堂などに神戸の風景を描いた絵画があったのは、患者さんの心のケアのためだったのですね?

藤原:はい、院内のアメニティグループと協力し、アメニティの改善を行っています。西区在住の画家のPeter Davidson氏とご縁があり、瀬戸内海を臨む神戸の絵、淡路島の絵や伊川谷の農家の絵などを寄贈していただくことができました。病院の白い壁は清潔感がある半面、退屈になりがちです。心を和やかにする優しい色合いの絵画があることは、長いリハビリを続けている患者さんにとっても励みになるでしょう。4年ほど前から少しずつ増やしているのですが、窓のない空間にも開放感が生まれますし、風景画ということで外部とのつながりが感じられると入院患者さんにも概ね好評です。
ご来院の際は、ぜひご覧ください。

──ありがとうございました。

 

 

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